の話
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彼は私の家のチャイムを押してやってきた。
扉を開けるとそこにからすがいて、私が腕を伸ばすとそこに乗った。
ブドウを一粒あげて、どうしたの、ってきいた。
彼はなにしに来たのかは言わなかったけど、いろいろ話をしたと思う。
家の車庫の横、小さな裏庭へ続く細い道の前で、彼の友達にも会った。長い羽毛で目まで隠れたからすと、小さなからす。腕に乗ってくれたのは、チャイムを押した彼だけだった。
彼と友達になれた気がした。
別れの時が来たらしく、私は彼のあたたかい体に少し頬ずりして、またおいで、と言って、玄関に置いてあった私の傘を彼に渡した。
それから、怪我しそうだったら無理に持ってなくても良いけど、それを私に返すためにまた来てよ、と言った。それをお別れとした。
彼の答えを聞いてはいない気がするが、傘を足で掴んでくれた。それが返事だったんだと思う。
彼らが飛び立つ。同時に、帰ってきた父が、車から降りた。
少し、雪が降っていた。父は、小さすぎる傘をさした。
目が覚めて暫くしてから、ああ、夢だったのか、と気付いた。
それほどに、色も、音も、温度もある夢だった。
彼らのことを忘れたくないから、ここに書いておく。
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