Diary

返事が無い。ただの…

2011/09/19(Mon) 20:35
言葉が返ってくる事は、あまりにも当たり前すぎて、
聞こえない事がこんなにも不安な事だとは思わなかった。



[ 返事が無い。ただの… ]



ピルルルル ピルルルル

なかなか秋の気配が感じられない空の下、カバンから漏れる微かな音に、歩みを止めた。
滅多に鳴らない色気のない電子音の着信音。
誰だろう?と、カバンの中の教科書やノートの隙間に転がる携帯電話を引っ張り出した。
ディスプレイが告げるのは『おかん』の3文字。
家に居ることの少ない母からの着信にちょっとだけ顔がゆるむ。

ピっ

「もしもし?おかんー、どうしたん?」
夕食の材料の買い出し頼む。とか、そんなとこだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・」
しかし、しばらく待っても何も聞こえない。
携帯電話を一旦耳からはずしディスプレイを確認したが、通話中になっている。
「もしもし?おーい」
「・・・・・・・・・・・・・・」
呼びかけても反応なし。
「ごめん。なんか電波の状況が悪いっぽい。全然声聞こえんから、一旦切ってかけなおすね」
こちらの声が聞こえていることを期待して、マイクに声だけ落として通話を切った。

少し見通しのよさそうな場所に移動しなおして、電話をかけなおしす。
「おかんー?一矢やけど、さっきの電話・・・というか、聞こえとる?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
やはり、何も聞こえない。
「声、届いとるんかな?」
こうも反応が無いと、さすがに不安になってきた。
「・・・メール・・・に、するわ」
電話を切って、改めてメールを打ち出した。

ぴぴぴ ぴぴぴ

ほんの数行のメールを打つ間に、メールの着信音が鳴る。
「オレより打つの早いし」
思った通りの母からの買い出しメモを見て、書きかけだった文章を消し、一行だけ打ち直した。
『了解です』

送信ボタンを押して、傷だらけのボディを眺める。
「とうとう、かな?付き合い長いもんな」
カギっ子の性もあって、わりあい早くから持っていた携帯電話。
それなりに愛着があって、なかなか変える気にならなかったのだけれど。
「・・・でも、やっぱり、治らなかったら、やな」
本当に壊れていたら、諦めも付く。
残暑は厳しくても、落ちるのが早くなった夕日が空を染め始め、近くの林では、ひぐらしに交じって鈴虫が鳴いていた。


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